2014年1月9日発行の新聞『被団協』363号の内容をご紹介します。

明けましておめでとうございます
2014年元旦
長崎原爆被災者協議会

厚労省には埋められない  司法と行政の乖離   山田拓民
厚生労働省による理不尽な原爆症認定審査は、最近始まったことではありません。たまりかねた被爆者がとりくんだのが、2003年から始まった「原爆症認定を求める集団訴訟」でした。この取り組みの中で、全国では原告(訴えた人つまり厚生労働省に却下された人)306名中裁判で原爆症と認められた人は264名(認定率86%)に達し、長崎でも44名が裁判に参加、途中で制度が若干改善され認定された人を含めると33名が認定されたのでした(認定率75%)。
▽「検討会」の設置へ
なぜ裁判所の判断と厚生労働省の判断がこうも異なるのか ― 多くの人がこのことに疑問を持つようになり、「原爆症認定のあり方を見直す」という総理の発言もあって、2010年12月に厚生労働省の中に設置されたのが『原爆症認定の在り方に関する検討会』だったのです。しかしこの『検討会』は3年という歳月を費やしながら、何の成果も収めずに、幕を閉じたのでした。
▽厚労省と裁判の違い
こんな無駄な「検討会」を作るまでもなく、厚生労働省の審査と裁判の違いとその原因は明白です。
①審査時間の差
厚生労働省の審査会は、普通午前10時から午後5時まで開かれます。昼食休憩を1時間とすると、審査のための時間は6時間です。この時間内で150件の申請を審査したとすると、1件当たりの審査時間は、2分です。
裁判では、数回の法廷で原告も被告もそれぞれに証拠を提出し、主張し合い、それをもとに、裁判官が合議し、判決にのぞむのです。
この差が結論に現れるのは当然ではないでしょうか。
②却下の理由も書けない厚労大臣
裁判の場合、当然のことながら、きちんと判決の理由が示されます。
厚生労働省の場合も、大臣名の却下通知書には、「下記の理由により」と記されているものの、そこには経過報告らしい言葉はあるとしても、理由といえるものはいないのです。しかもここに掲げられている「理由」は、「放射線に起因するものでない」という場合は、対象者が100人いたら、100人全員に全く同じ文言なのです。
この「却下の理由の有無」も、厚生労働大臣の却下と裁判の大きな違いです。
▽裏に滲む戦争被害受忍論の影
厚生労働省がこんなに原爆症を小さく見せようとするのは、「戦争の被害は我慢するのが当然」という考えに支配されているからだと私は思います。私たちが取り組む課題は、決して小さくはないのです。


二世の会」が長崎市と県に要請

長崎と諌早の被爆二世の会は、12月20日午後2時、長崎市役所を、また同日午後3時15分に長崎県庁を訪問、それぞれ、市長と知事あてに、長崎被災協と両二世の会連名の「要望書」を提出、それぞれ約1時間要請を行いました。
この日、要望署に記載された要望事項は、次のとおりでした。
1.被爆二世に対して、被爆者に準じた援護施策を実施すること。
(1)被爆二世に対する実態調査を速やかに実施すること。
(2)希望する二世に対して、被爆二世手帳を発行すること。
(3)(2)の手帳所持者のがん検診など健康管理と治療・療養を国の責任で行うこと。
2.国に対しても被爆地長崎市(県)行政の要望としてお伝えいただくこと。
こうした要請は、二世の会としては初めてのことでしたが、これから随時、市や県との意思疎通を図ってゆくことになりました。


◇原爆症認定に新基準◇
全面的に『改善』を否定、司法との乖離も埋まらぬまま

裁判所での勝訴つづく
厚生労働省の不当な却下処分を裁判でくつがえし、原爆症認定を勝ち取ったケースは、2000年7月に最高裁で勝利の判決をかちとった松谷英子さんの例などありますが、2003年になって、全国17の裁判所で、300名を超える被爆者が取り組んだのが、「原爆症認定集団訴訟」と呼ばれた闘いでした。
この取り組みの中で、次々と厚生労働大臣に却下された被爆者が、裁判所によって原爆症と認められたのでした。
どうして生じるのか裁判所と行政の格差
1人の被爆者の病気が、どうして厚生労働省の審査では、原爆の放射線によるものではない、と判断され、裁判では、「原爆の放射線による」と判断されることになるのでしようか。
この謎を解き明かすことを主な課題として発足したのが、2010年12月9日にはじまり、ことし12月4日に幕を閉じた「原爆症認定制度の在り方に関する検討会」だったのです。
役目を果たせなかった厚労省の「検討会」
しかし「検討会」では、開催中きちんとした論議も行われないまま、つまり、この役目をいわば放棄したまま、閉幕しましたのでした。この「検討会」では、初日に厚生労働省の担当者が、厚生労働省の審査がどんなに科学に裏付けられた審査であるかを強調するとともに、裁判所での審査は目の前の個々のケースだけを見ての判断であり、比較にならない、などの不当な発言を繰り返したのでした。
こうした厚生労省側の発言に惑わされた委員たちは、その後ほとんどこの件について議論することもなく、課題を棚上げにしてしまったのです。
決まったのは現行制度の再確認
こうして「検討会」が12月4日に出した〈最終まとめ〉は、現行制度の追認としか言えないものでしたし、それにもとつく厚生労働省の「新しい審査の方針」も、これまで病気の頭に「原爆の放射線による」という言葉をつけていた4疾病のうち、3疾病(心筋梗塞、甲状腺機能低下症、慢性肝炎・肝硬変)については爆心地から2㎞以内での被爆、放射線白内障については1.5㎞以内での被爆という枠を明示しただけのことでした。
報道に誤解も
このことを勘違いしたのか、一般の新聞の中には、「見出し」に原爆症の認定基準が緩和されたかのような表現も見られましたが、今回の改定は、到底「改善」とは言えないものであり、昨年8月の、広島、長崎での総理の発言にも背くものと言うほかはありません。
被団協、抗議声明を発表
日本被団協は、今回の「新しい審査の方針」に対し、直ちに抗議の声明を発表しました 。


被爆の実態と司法の判断を無視した「基準」
日本被団協が抗議の声明

日本被団協は、12月16日、厚生労働省が原爆症認定審査についての『あたらしい審査の方針』を発表したのを受けて、声明『被爆の実態と裁判所の判断に従わない原爆症認定に関する基準の改訂に強く抗議する』を発表しました。
「声明」は、ガンでない疾病について、厚生労働省の「新基準」は、単に被爆地点の距離だけに目を向け、これまで残留放射線の影響や被爆の実態を踏まえて認定してきている司法の判断を無視するものである、と指摘しています。
さらに「声明」は、昨年8月の広島・長崎で総理が「今なお苦痛を忍びつつ、原爆症認定を待つ方々に、一日でも早く認定がおりるように最善を尽くします」と決意を表明したことにも触れた上で、行政が、「司法の判断に沿って司法と行政の乖離をうめるのが、法治国家の基本的ルール」と指摘、今回の厚生労働省の原爆症認定基準の改訂は、このルールにも反し、「厚生労働省の司法判断に対する挑戦」といわざるをえない、と断じています。

原爆症認定審査の基準について、ご質問、ご意見などお持ちの方は、ご遠慮無く、長崎被災協事務局へお申し出下さい。


12月のうごき

3日 長崎の証言の会運営委員会 (山田)
8日 不戦の集い
9日 原爆症訴訟弁護団会議 (山田・田中・森内)
11日 被団協代表理事会 (谷口・山田)…12日まで
14日 長崎の証言の会.総会(山田)
17日 恵の丘原爆ホーム慰問(谷口.坂本・柿田)
20日 二世の会が市.県へ要請 (谷口・山田・二世の会役員)
被爆者5団体代表者会議 (山田)
24日 被爆遺産を守る会が取材 (山田)
25日 原爆資料館運営委員会 (谷口)
26日 山本寛さん原爆訴訟