2008年4月9日発行の新聞『被団協』294号の内容をご紹介します。

  ◇被災協などただちに抗議◇
原爆症認定審査の新方針、厚労省が一方的に決定

 厚生労働省は、3月17日の 午前10時から開催した原爆症認定
審査会(正しくは疾病・ 障害認定審査会 被爆者医療分科会)にはかり、「新しい事査の方針」を決定しました。
日本被団協などとの協議が進 行中のことでした。また、15日には広島で、16日には長崎 で、与党プロジェクトチーム 主催の原爆症認定のあり方をめぐる懇談会がひらかれ、厚 生労働省の担当官も出席して、被爆者代表が指摘する厚生労 働省案への批判を直接聞いていたにもかかわらず、まるで被爆者の声を無視するような決定の仕方に怒りの声が起っています。
長崎被災協も集団 訴訟を支援する会も、ただち に厚生労働大臣へ抗議の文書 を送付しました。

 3月17日に厚生労働省が一方的に決めた審査の方針

1 放射線起因性の判断 1積極的に認定する範囲
1)被爆地点が爆心地より3.5km以内である者
2)原爆投下より100時間以内に爆心地から2km以内に入市した者
3)原爆投下より約100時間経過後から、原爆投下より約2時間以内の期間に、爆心地から約2km以内の地点に1週間程度以上滞在した者

から、放射線起因性が推認される以下の疾病について申請がある場 合については,格段に反対すべき事由がない限り、当該申請疾病と被爆した放射線との関係を積極的に認定するものとする。

1)悪性腫瘍(固形ガンなど)
2)白血病
3)副甲状線機能亢進症
4)放射線白内障(加齢性白内障を除く)
5)放射線起因症が認められる心筋梗塞
この場合、認定の判断に当たっては、積極的に認定を行うため、 申請者から可能な限り客観的な資料を求めることとするが、客観的な資料が無い場合にも、申請書の記載内容の整合性やこれまでの認定例を参考にしつつ判断する。

2 1に該当する場合以外の申請について
1に該当する場合以外の申請についても、申請者に係る被曝線量、既往歴、環境因子、生活歴等を総合的に勘案して、個別にその起因
性を総合的に判断するものとする。
(第2要医療性 第3方針の見直しは省略)

 =新方針の欠陥=
被爆者分断・原爆被害矮小化

 =特別被爆者制度の復活か=

厚生労働省の「新しい審査 の方針」の大きな問題点は、被爆者からのきびしい批判にもかかわらず、1)爆心地から
3・5キロ以内で被爆した者、 2)原爆投下から100時間以内の入市被爆者、3)その後の入市者でも爆心地から2キロ以 内に1週間以上の滞在した者を、被爆者の中の特別の被爆
者として区別していることです。まずこの区別は、原爆が 炸裂した時の放射線のことしか考えておらず、集団訴訟の裁判でも明らかになった誘導放射線や放射性降下物などの被害を無視したもので、原爆
の被害を小さく、狭く見せようとするものだからです。  つぎに問題なのは、1)2)3)の人たち以外の扱いが極めて 抽象的にしか述べられておら
ず、さっぱり内容がわからないことです。 3番目の問題点は、「放射線 起因性が推認される」病気として、ガン、白血病、副甲状 腺機能亢進症、放射線白内障、
放射線に起因する心筋梗塞の 5つの病気しか認めていないことです。ここにも原爆の被害 を小さく見せようという意 図がみえみえです。

 4・5月の暫定予算も決定
理事会・評議員会ひらく。
広げよう「新方針」への批判

07年度第6回理事会と第52回評議委員会は、3月27日午後 2時から長崎被災協地階講堂 で開催され、新年度4月・5 月の暫定予算を決定しました。  また、3月17日に厚生労働省の「新しい書査の方針」が 決定されたことについて、決 定への経緯と内容の問題点に ついての報告を受け、その危 険な内容を被爆者・市民の間に広めること、内容の改善を 求める運動を継続するととも に、積極的に認定申請にもと りくむことを確認しました。さらに、新制度の下での法人の形態についても、準備を すすめることにしました。会議に先立って、長崎大学原研内科の朝長方左男教授の 「被爆者とガン」についての講話に耳を傾けました 。
進んで受けようがん検診 -長崎大学朝長教授が講話-
  原爆の真の影響は、まだよくわからないのです。被爆後白血病がピークを迎えましたが、その後減少しました。今度はほかのいろんなガンが増えはじめたのです。
こうしたガンも、白 血病と同様に、一定期間過ぎると減少するのではないか、と考えられましたが、 いまなお増え続けています。 この意味では、60年たっても、原爆は被爆者の体の中で生きているのです。だからこそ検診が必要なのです。もし異常が無かったら安心できるし、ガンが見つかっても、早い内なら治る可能性は大きいのです。ぜひ、 検診を受けて下さい。

厚労省の特別被爆者構想
51年前の妖怪が再登場

今から51年前の昭和32年、被爆者にとってのはじめての法律「原爆医療法」できました。
それは①被爆者を特定して「手帳」を交付し、 ②被爆者には公費で健康診断を行い、①原爆の放射線による被爆者の病気やケガは国が治療する、というものでした。
それから3年後の昭和35年、 爆心地から2キロ以内で被爆した被爆者を特別被爆者と呼び、この人たちが病院・診療所へ行ったときに窓口で払う自己負担分については国が負担するという制度が出来ました。
この2キロ以内の被爆者と限定することに、当時の長崎被災協も、不当だから撤廃しろということを決議しています。
こうして3年後には3キロに拡大、さらに8月12日 までに入市した被爆者も含まれるようになりました。昭和53年には原爆特別措置法が制
定され、健康管理手当の制度ができましたが、それも特別被爆者に限られました。
特別被爆者の範囲は、その 後さらに拡大し、昭和49年には廃止され、全ての被爆者が病院・診療所の窓口での自己負担分は払う必要が無くなり、
被爆者は誰でも、健康管理手当を申請できるようになったのです。特別被爆者制度は変な制度だと、政府も諷めざるを得なくなったのです。
今度、厚生労働省が固執している3・5キロ以内の被爆者、100時間以内の入市被爆者などというのは、51年前むしかえしなのです。(山田)

 県下巡回相談
関心高く、熱心な集会に
大村市では200名参加

 恒例の県下巡回相淡会は、 今年度も2月27日に大島町で、翌28日は西海市西海町と大瀬戸町で、3月11日は東彼波佐見町で、12日は東彼町と大村市で開催しました。
被爆者の関心は高く、ほとんどの 会場で前回の2倍を越え、大村市では200名参加という盛況でした。各会場とも、現行法の説明、医師による健康講話のあと映画「人間をかえせ」を上映、その後質疑応答、個別の相談を受けました。医師による健康講話は、元気に長生きをするための身近な内容でわかり易く、参加者に好評でした。後期高齢者医療制度については、いままでの制度がどう変るのかよく知らなかった参加者にとっては衝撃的で、質問も沢山出て、先生には丁寧に答えて頂きました。個人相談が多かったのも、今回の特徴でした。こんなに多くの被爆者に馴染み深くなった県下巡回相談会ですが、県の予算の関係で来年度からは中止となりそうです。とても残念です。
(柿田

 


=読書のコーナー= 「夏の残像・ナガサキの八月九日」 凱風社

 広島には『はだしのゲン』 があるのに、どうして長崎にはないの?という声に応えるかのように、西岡由香さんの漫画『真の残“像ナガサキの八月九日』が凱風社から出版されました(定価1100円+消費税)。
主人公 は木村カナという 都立高校 1年生の女の子。 夏休みにおばあちゃんが住む長崎を訪れるところから物語ははじまります。
1965年生れの西岡由香さんは、もちろん被爆者ではありません。この本の最後のページには、参考文献が載っていますが、勉強の跡がしのばれます。
この本は ①ラストレター ②自画像 ③マ ンハッタン・サンセット  ④真の残像 ⑤アジアン・ リバー、という5編の物語りで構成されています。目を通し終えて、それぞれに
自分にとっての原爆を思う でしょう。中学生以上の方へお奨め。 

 長崎被災協3月の動き

  1日・集団訴訟支援街頭宣伝
3日・長崎青年乙女の会総会
4日・日本被団協などと厚生労働省との第2同協議
8日・集団訴訟支援街頭宣伝
10日・日本被団協代表理事会(山田)
11日・中央での要請行動(山田、池田、長浜、森内)
・県下巡回相談会・波佐見町、東彼杵町(谷口、柿田)
12日・県下巡回相談会・大村市(前 谷口、柿田)
13日・平和推進協会・継承部会(谷口)
14日・原爆症認定審査の改善について被爆者5団体協議 (山田)
・日本被団協などと厚生労働省との第3回協議
15日・集団訴訟支援街頭宣伝
16日・与党王プロジェクトチーム主催の懇談会(谷口、山田、森内)
17日・集団訴訟第2次訴訟口頭弁論
・厚生労働省が被爆者医療分科会にはかって「新しい審査の方針」を決定
・厚生労働省の 「新しい審査の方針」について記者会見
18日・厚生労働省の決定に対し、被災協が抗議声明
・集団訴訟を支援する会も抗議文を送付
19日・県市の被爆者関係担当者と被爆者団体などの代表者との協議会(谷口、山田)
22日・集団訴訟支援街頭宣伝
24日・被爆体験を語り継ぐ会・平和推進協会理事会(谷口)
27日・第6回理事会、第52回評議委員会
29日・集団訴訟支壌街頭宣伝  ・民医連評議員会(山田)