2010年8月9日発行の新聞『被団協』322号の内容をご紹介します。

 ◇原爆症認定集団訴訟◇
 長崎地裁で第二次訴訟 
  熱傷痕痕を原爆症とみとめず

7月20日、長崎地裁は原爆症認定を求めて国の却下処分は不当と争ってきた6名の被爆者のうら2名については原爆症と認め、4名については訴えを棄却する判決を下しました。

原爆症として認められたのは、1・5キロで被爆し、変形性脊椎症は原爆によるものと訴えた森田さんと、2・6キロで被爆し、小脳に腫瘍がみつかった栗原さんの2名。
森田さんは長年苦しんできたに熱傷瘢痕ついても原爆症と主張してきましたが、同じ熱傷瘢痕で訴えていた長谷さんとともに、裁判所は認めませんでした。鈴木さんと川原さんは、入市した日について裁判所が確認できずに敗訴、また、川副さんについては八千代町での被爆にもかかわらず、被爆者健康手帳では誤って戸町被爆となっていたため棄却されました。

提訴した18名中14名が原爆症と認定
もともとこの裁判には18名が名を連ねていましたが、うち12名は、裁判で敗訴を続けた厚生労働省が審査の方針を改定し、これが適用され認定されたため、裁判の対象となったのは6名となったものです。この意味では、裁判にとりくんだ18名中14名が、当初の目的を達成できたといえます。

本格的なとりくみへ
長崎での集団訴訟は、一応決着しました。しかし今回の判決でも、明らかなように「放射線」が判断の材料となっています。ところが原爆による被害は、放射線だけではありません。熱線も爆風も、被爆者を苦しませ、さらに心に受けた傷も、さまざまな健康障害をもたらしています。しかし、今の法律では、こうした被害には対処できません。いまこそ、原爆によって生じるすべての被害に対応できる法律をつくらなければならないと山田事務局長は言っています。

 



 審査の遅れは不当ではない 
不誠実な地裁の対応

原爆症認定集団訴訟の長崎地裁判決では、行政のあり方について、つぎのように、厚生労働省を擁護する判断を示しています(地裁の判断は、判決要旨による)。

①審査の基準について
 厚生労働省が認定審査の際の基準を設けていないことについて、長崎地裁は、原爆症認定の判断は高度に専門的な判断を要するものであり、また個別具体的な判断をしなければならないので、具体的な基準を定めなくても、行政手続法5条違反とはいえない、との判断を示しました

②審査の遅れについて
原爆症認定作業は申請者のこれまでの病気や生活環境、生活状況なども勘案した上での判断が求められるものであり、この判断には1年程度を必要とするものも相当な割合であるとも思われるので、原告についても、不当に長い期間とは言えないというのです。

③却下理由の欠落について
審査会でその病気の原因確率を求めたり、医学的な判断がなされた結果、放射線起因性を欠くと判断し、厚生労働大臣がこの意見を受けて却下したことはわかるので、行政手続法8条で、却下の際は理由を示せということに違反するものではない、としたのでした。

 


 非核3原則の見直しなど 
首相の諮問機関が答申へ

菅首相の私的諮問機関「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」が首相に提出する報告書の内容が明らかになったということで、菅政権の防衛構想への影響が注目されています。
明らかにされたその内容は、中国、北朝鮮を敵視し、日米同盟をより確固たるものにするための日本の役割を強調、「核の傘」を評価し、「核持ち込ませず」は一方的にアメリカの手を縛るものとして非核三原則の見直しを求め、武器輸出三原則の緩和など、これまでの安全保障政策について、かなり大がかりな転換を求めています。

「懇談会」という名の「私的」諮問機関といえば、35年前の被爆者対策基本問題懇談会・答申を思い出しますが、油断できない状況です。

 


◇原爆症認定審査◇
 滞留解消方針のもとで654件の申請を1日で審査 
第5.第6部会での却下率96%

原爆症認定を申請しても2カ月待たされるのは普通で、なかには3カ月も待たされて、届いたのは「却下」の通知、と言う人も少なくないことから、滞っている申請の解消を厚生労働省に求め続けてきました。それに応えて厚生労働省が作った解消策を前号では紹介し、平均すると1件の申請を審査する時間は3分半しかなく、これで審査ができるのかと指摘したところです。

さて審査の実態は…
6月にはいって、滞留解消方針にもとづく審査が始まり、第1部会を除く第2、第3、第4の部会がひらかれましたが、保留の多さが目立っています。そして6月21日に新設の第5、第6部会がひらかれました。その結果が下の表の通りです。

1件を33秒半で審査?
普通、審査の結果を示す表は、各部会ごとに発表されます。そして部会で対応できない疾病とか複数の疾病を罹患しているような場合、委員全員が参加する「被爆者医療分科会」で審査されるのです。
ところが、6月21日の場合はこの点がはっきりしません。これが第一の疑問です。

 

第109回疾病・障害認定審査会原子爆弾被爆者医療分科会(第五審査部会、事大審査部会)議事要旨(厚生労働省のホームページによる)
会議の日時及び場所
(1)日時  平成22年6月21日(月)10:00~
(2)場所  中央会同庁書5号館 厚生労働省 専用第21会議室(17階)、共用第9会議室(18階)
委員の出欠状況(省略)
議事となった事項
(1)原爆症認定審査(非公開)
(2)異議申立て審査(非公開)(省略)
審議の結果
(1)原爆症認定審査

 


余りにも多い審査件数
上の表「答申件数」の合計欄をご覧ください。645…これが当日審査した件数です。もしこれを1会場1日で審査したとしたら、1件当たりの審査時間は、わずかに33秒半なのです。

却下率は96%にも!
表の「却下」欄の最下段(合計)をみて下さい。645件を審査して619件がダメ(却下)だったのです。率にすると申請者の96%が却下されているのです。このとき原爆症と認められたのは腫瘍で14人、肝機能障害で2人だけ。645人の申請者中の16人(2.5%)にすぎません。これが第二の疑問。

審査はすべて密室で
審査は、完全な密室で行われ、私たち国民が知りうるのは、左上の表だけなのです。しかもこの表の表題 「被爆者医療分科会(第五審査部会、第六審査部会)議事要旨」の意味さえも不明確です。そして、こんなに不明確な審査で、膨大な被爆者がはじき出されているのです。

 



 《時の言葉》 戦争被害受忍論 
  

前回の「原爆被害への国家補償」を実現させまいとする考えが、「戦争被害受忍論」なのです。軍人や軍属は国の命令で戦争に参加したのだから、この人たちが死んだりケガしたりした場合は、国としてもそれ相当のことをしてあげなければならないが、一般の国民がケガしたり、死んだりしたのも、家などの財産が焼かれたり壊わされたりしたのも、戦争だったのだから仕方がないじゃないか、がまんしなさい、というのが「戦争被害受忍論」 なのです。「受忍する」とは「がまんする」ことなのです。 そして、あの原爆の被害も「がまんしろ」というのです。

あなたは、がまんできますか?
戦争の被害、原爆の被害をがまんできないからこそ、私たちは「核兵器をなくせ」「二度と被爆者をつくるな」と叫んできたのです。ところが14年前にできた「援護に関する法律」では、「核兵器をなくせ」ではなく、「核兵器の究極的廃絶」といっています。「究極的」とは、ずっとずっと先のことなのです。それまでは核兵器を認めるというのです。
「戦争被害受忍論」にまどわされず、核兵器なくせ!戦争の被害に国の償いを!の運動をもりあげましょう!

 


 

長崎被災協7月の動き

5日 集団訴訟支援署名を裁判所へ提出(谷口、山田)
提出した署名総数17,434名分
7日 本年度第3回(拡大)理事会
8日 新聞『被団協』発送作業
9日 長崎弁護団会議(山田・柿田)
12日 被団協代表理事会(谷口、山田)→13日まで
17日 集団訴訟を支援する会が街頭宣伝(長崎駅前高架広場)
20日 長崎地裁判決→判決後市町村会館へ移動して報告集会
23日 集団訴訟を支援する会拡大運営委員会
24日 全国弁護団、原告団、支援する会の全国会議(森内、柿田)
26日 ララコープ
NPT訪米報告集会(谷口、池田、小峰))