2012年11月9日発行の新聞『被団協』349号の内容をご紹介します。

核兵器非合法化の提案に
著名を拒否した日本政府
日本被団協、直ちに抗議声名

もっとも重要なことは、核兵器がいかなる状況下においても二度と使用されないことです。(中略)すべての国家は、核兵器を非合法化し、核兵器のない世界を実現するための努力を強めなければなりません。」この文言が織り込まれた「共同声明」が10月22日(現地時間)、開会中の国連総会第一委員会で34カ国とオブザーバー国バチカンの賛同の元に発表されました。
この声明は、当初スイス、ノルウエーなど16カ国で提案され、日本政府にも賛同を求める打診があったにもかかわらず、日本政府はこれを拒否したことは、新聞などでも、大きく報道されたところです。
この経過を知った日本被団協は、ただちに「日本政府は核兵器の廃絶を求める世界の先頭に立て」という表題の声明を発表、「世界で唯一、原爆の非人道的破壊の被害を受けた被爆者は、共同声明を歓抑する」と被爆者の立場を明らかにしたうえで、この声明への賛同を拒んだ日本政府に対し、「34カ国共同声明に賛同し、核兵器廃絶実現の先頭に立つことを強く求める」ときびしく批判しました。
なお、長崎被災協では、長崎大学核兵器廃絶研究センターのご好意で、「34カ国声明」の英語版と日本語訳を入手、11月に予定している理事会でも、この声明の内容と日本政府の対応、日本被団協の声明について、意見を交換する予定です。


◇ 九州ブロック相談事業講習会、熊本で開催 
長崎からは20名が参加

 今年の九州ブロック相談事業講習会は、10月14日・15日の2日間、熊本県玉名郡南関町のホテル・セキアで開催、風意義な2日間を過ごしました。長崎からは、貸切りバスで20名が参加しました。


被爆者運動の継承めざし
二世の会が学習集会
11月17日・18日被災協で

 九州各県の被爆二世の会を中心に山口、島根、兵庫の被爆二世の会も加わって、「被爆者運動継承の学習・交流集会」が長崎被災協の地下講堂で開催されます。
日程は、11月17日(土)午後1時30分から午後5時半までと翌18日(日)の午前9時から正午まで。
この「学習・交流集会」は、被爆者は何を求めて被爆者の組織を確立し、どのようなとりくみを展開してきたのかを学び、これからの被爆二世の運動に役立てようと企画されたもので、会では山口仙二さんの映像が披露され、若い被爆者である日本被団協の事務局次長の木戸さん、現在も原爆症集団訴訟にとりくんでいる熊本の事務局長・中山さん、それに長崎の山田事務局長がこれまでの被爆者運動を振り返りながら当面の課題について語ります。
参加費500円。
いまも国家補償の被爆者援護法の実現をめざす被爆者にとっても大事な内容です。


 ◇これが原爆症認定審査◇

1件の審査時間、わずかに2分36秒

却下理由も示せない厚生労働省

 

1件あたりの審査時間は?
ことし1月から9月末までに原爆症かどうか審査がなされたのは、認定審査1,320件、異議申し立て審査751件、合計2,071件でした。審査に費やした時間は5,370分なので、1件当たりの審査時間は、2,6分!

 被爆者が原爆の放射線が原因で病気になった時、国は治療費を負担し、136干余円の手当を支給します。しかしそのためには、その病気が原爆の放射線に起因するものであるという厚生労働大臣の《認定》を受けなければなりません。ところが厚生労働大臣は、それをなかなか認めようとしないのです。
今、厚生労働大臣から原爆症と認められなかった人達は、《異議》を申し立てて戦っています。

 原爆症認定申請を却下された人たちは、「異議の申し立て」をすることができますが、書面での申し立てだけでなく、口頭で意見を言うこともできるし(これを口頭陳述といいます)新たな資料を提出することもできるのです。
長崎市内でも、厚生労働省の担当者に、直接、なぜ厚生労働大臣の却下に納得できないかを明らかにし、きちんと審査し、原爆症と認定せよと迫る取り組みを進めています。

あまりに低い認容率
10月に開かれた「口頭陳述」の場でも、異議申し立て人である被爆者の代理人としてその場に臨んだ山田事務局長は、第一に、審査した異議申し立ての中で、原爆症と認められるケースが余りにも少なすぎることを取り上げました。
たとえば、下の「異議申し立て審査状況」の表をご覧ください。

2012年1月~9月の「異議申し立て」審査状況

審査日数 審査部会 審査員 認容率 (%)
 1月16日 86 2 2.33
 1月30日 分科会 147 1 0.68
 2月9日 17 0 0.00
 2月13日 16 1 6.25
 2月27日 11 0 0.00
 〃 分科会 109 2 1.83
 3月1日 8 3 37.50
 4月9日 6 0 0.00
 4月23日 分科会 9 0 0.00
 5月28日 分科会 36 1 2.78
 〃 23 1 4.35
 6月4日 26 0 0.00
 6月25日 分科会 120 0 0.00
 7月30日 分科会 83 3 3.61
 8月27日 分科会 21 1 4.76
 〃 1 0 0.00
 9月3日 2 0 0.00
 9月24日 分科会 30 3 10.00
合計 751 18 2.40

O「認容」とは異議を認め、原爆症と認めること。
「認容率」は、審査した中で原爆症と認められた件数の割合。

O「分科会というのは、厚生労働省の「疾病障害認定審査会」に設けられている「原子爆弾被爆者医療分科会」のこと。また、①~④は分科会の中に設けられている審査部門で、ここでは却下相当のものは保留とされ、後日、分科会で処理される。

 

 ことし1月30日には147人を審査していて、認められたのは僅かに1人、2月27日には109人審査していて認定は2人、6月25日には120人審査していて、認定はゼロという状況で、全体としては、751人もの異議申し立てを審査して、厚生労働省が異議を認めたのは僅かに18名(2・4%)に過ぎないのです。
これでは、「被爆者の異議は原則として認めない」という鉄の綻が、厚生労働省にあるのではないかと疑いたくなると指摘しました。まさに放置できない事態といえるでしょう。

理由も書けない厚労大臣
山田事務局長は、さらに、却下通知書に、「下記の理由により認定することができませんので…」と書いてあるものの、そこに書いてあることは「理由」ではない、と強調しました。
つまり、被爆時の状況をどうみたのか、その後の健康状況をどう判断したのか、どのような医学的知見・経験則に立って、何をどのように判断し、申請者の病気が原爆の放射線に起因するものではないと判断したのかが欠落しているからです。
却下通知書の文面が、日付と宛名以外は、申請者が異なっても、完全に同じだというのも奇怪で、全く理解に苦しむ、と山田事務局長は指摘しました。

やれることはやろう
今後、日本被団協の代表委員、事務局長も参加している厚生労働大臣の諮問機関 「原爆症認定制度の在り方に関する検討会」での議論も進み、やがてはそれなりの「答申」が出て改善がなされるでしょうが、それまで現行の在り方を存続させるには、余りにも現行の制度は理不尽にすぎるのではないでしようか。
たとえば1件当たり1分、2分という審査でふるいおとすのではなく、被爆者の苦しみを理解し、しかもその被爆者の苦しみは国が始めた戦争に由来するものである事を自覚するならば、それに沿った対応としての審査は、今の厚生労働省でもできないことはない、と山田事務局長は指摘します。
たとえば、広島、長崎で被爆者医療に従事している医師、研究者を集め、東京でだけではなく、広島、長崎でも審査会を開くことを検討すべきだというのです。

占領軍の意向反映か
「広島・長崎では原爆症で死ぬべきものは死んでしまい、9月上旬現在において原爆放射能のために苦しんでいるものは皆無だ」と原爆投下から1ケ月後の8月6日、占領軍は公式に声明を発表しており(ファーレル声明)、さらに今に至るもこの声明は取り消されていないところを見ると、厚生労働省の手かせ、足かせとなっていることは、十分に考えられる、とも山田事務局長はいいます。「核兵器の非合法化を訴える34カ国声明(1面参照)」への署名を拒否した日本政府ですから、当然と言えるのかもしれませんが、絶対に許せないことだと、山田事務局長は強調しています。